天空上で輝く巨大な爆発波のガンマ線撮像に成功
茨城大学、イタリアの国立核物理学研究所(INFN)、青山学院大学、米国のSLAC国立加速器研究所などとの共同研究チームは、「はくちょう座ループ」という超新星残骸のガンマ線画像の取得に成功しました。
宇宙空間には、宇宙線という非常にエネルギーの高い粒子が存在しています。そのような粒子の一部は、超新星爆発という星が死を迎える時に引き起こす大爆発のエネルギーによって生成されています。生成された粒子は、周囲のガスなどと反応して高エネルギーガンマ線を発生させています。2008年に打ち上げられたフェルミ・ガンマ線衛星によって、そのようなガンマ線源がいくつか見つかってきました。ところが、それらのガンマ線のスペクトル(エネルギー分布)をよく見ると、奇妙な折れ曲がりがあることが分かってきました。図1は、「はくちょう座ループ」の例です。
この折れ曲がりは、1.生成された宇宙線が時と共に爆発波から抜け出して拡散していく効果によって作られたという説(拡散説)、2.爆発の衝撃波が当たっている雲の中にある中性粒子によって、宇宙線を閉じ込めるために必要な磁場の生成が抑制されて高エネルギーな粒子が逃げ出しているとする説(磁場消失説)、3.爆発波と物質が相互作用したときに生じる逆行衝撃波によって粒子が加速されるとする説(逆行衝撃波説)、などがありますが(図2参照)、まだはっきりしていません。これらの説では、予言するガンマ線の空間分布に違いがあります。拡散説では超新星残骸に付随する分子雲の形状によく似たガンマ線の放射が期待されますが、磁場消失説、逆行衝撃波説では薄い衝撃波面に沿った形のガンマ線が観測されるはずです。よって、折れ曲がりの起源を調べるには、ガンマ線の空間分布が役に立ちます。
研究チームは、フェルミ衛星のデータを用いて「はくちょう座ループ」1と呼ばれる超新星残骸に着目しました。「はくちょう座ループ」は見た目の大きさが約3度(月の約6倍)もあって、ガンマ線を放射する超新星残骸の中では最も大きいため、詳細な空間分布を議論するのに適しています。図3は、ガンマ線のイメージです。緑の等高線は、ガンマ線以外の波長の電磁波観測です。左図の等高線は、水素原子のHα(エイチアルファ)という光の観測で、星間ガスに衝突した薄い衝撃波の位置を示します。ガンマ線の分布は、衝撃波の形状と対応していることが分かります。一方、右図の等高線は、一酸化炭素の分子線で比較的密度の高い分子ガスの位置を表します。分子ガスとガンマ線は相関していません。これのことから、少なくとも「はくちょう座ループ」では、ガンマ線スペクトルの折れ曲がりは、拡散説ではなく、磁場消失説、あるいは逆行衝撃波説等が有力であることを示唆します。
現時点でのガンマ線観測のデータの質では、空間分解能が不足しているため、起源を特定するには至っていませんが、ガンマ線スペクトルの折れ曲がりの起源について一石を投ずることができました。これらの結果は、アストロフィジカルジャーナル誌に掲載予定です。
研究代表者・連絡先
茨城大学・理学部・准教授 片桐 秀明
電話番号 :029-228-8394
FAX番号 :029-228-8455
電子メールのアドレス :katagiri(アットマーク)mx.ibaraki..ac.jp
用語解説
1.
はくちょう座ループ
網状星雲ともよばれる。その名の通り、可視光で網状の美しい構造が見られるため、アマチュアによる天体観測もよく行われる。例えば、http://spacetelescope.org/images/heic0712gなどを参照。